小さな旅、美しい風景、写真 そして温泉と銭湯

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飯田線の秘境駅 《#5-3》 ― 小和田駅周辺を散策 ―

 小和田駅では

次の列車まで1時間半ほどの余裕がある。

 

クマ除けのベルをつけながら

駅周辺の散策に出かけましょう。

 

小和田駅から最も近い人里は「塩沢集落」らしいが

片道で徒歩1時間ほどを要するとのこと。

塩沢集落訪問は断念ですね

 

駅周辺をウロウロ。

いかにも秘境駅らしさがプンプン匂う。

まるで昨年まで、

人がいて、動いていたかのような建物と機械。

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そろそろ歴史的人工物から離れて

自然を満喫してみよう。

 

先ずは

天竜川沿いに下流方向へ向かう。

目的地は「小和田池之神社」

 

流れ落ちる沢を越えて細い道が続いている

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「小和田池之神社」到着。

 

恋は成就するでしょうか?w

 

 

もう一度駅近くまで戻り

今度は上流側に行ってみます。

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中央上あたり、木々の緑に挟まれて

飯田線の鉄橋が見える。

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左の道を行けば、今は落橋して通れない「高瀬橋」

右の道を行けば、「塩沢集落」

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右の道を選ぶ

 

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「通行止め。う回路」の看板が現れた。

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そろそろ引き返す時間になってきた。

分岐点の廃棄された(と思われる)バイクを再掲

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ちょうどいい時間に戻ってきた。

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そして程なく列車がやってきた

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小和田駅」の次は、箸休めの「水窪(みさくぼ) 駅に向かいます。

飯田線の秘境駅 《#5-2》 ― 三県境界駅「小和田駅」 ―

 

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ホームの後方には天竜川のダム湖が広がっています。

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ホームは静岡県に属していて

天竜川の対岸の下流(画面では左側)が愛知県

上流側(画面では右側)が長野県。

先ほど下車した「中井侍駅」は長野県になります。

 

 

小和田駅ホームから「豊橋」・「大嵐(おおぞれ)」方向を撮影

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 ホームから「中井侍」方面を撮影

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飯田線の秘境駅 ≪#5-1≫ 恋を成就させる「小和田(こわだ)駅」8時34分~10時11分 そして運転再開!

飯田線秘境駅の中で

最も有名な駅にして

秘境駅ランクも最も高い

小和田駅

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と同時に、「恋を成就させる駅」でもある。

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 ↑ 陰になって見難いが、看板左の柱に朱色の文字で

「恋成就駅 小和田」と書いてあります。

 

 

この東屋の中にあるのは 

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皇后陛下の実家「小和田家」にあやかり、天皇陛下とご成婚されたときに建てられたと思われます。

 

 

このような写真が無人の駅舎に掲げてありました。

この駅で執り行われた結婚式の写真と思われます。

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 駅舎に備えられた机は、まるで駅員さんがいるかのよう。。。

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小和田駅の2017年の一日当たり乗車数は8人。

今回訪れた6つの秘境駅の中では中井侍駅に次いで多い。

殆ど、ひょっとすると全員が秘境駅愛好者かもしれない。

 

 

【ちょっと豆知識】

レールと木枕木を結び合わせるのは、ボルトと釘です

枕木を支えている小さな石達を「バラスト」と言います。

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線路が曲がっている場合、原則として

曲線のレールを使うのではなく

直線のレールを、ボルトや釘で枕木に固定しつつ少しずつ曲げていきます。

 

粘り気のある鉄の特性が活かされています。

釘は大きなハンマーで打ち込みます。

レールや枕木を傷つけることなくハンマーを釘に当てるには

「熟練の技」が求められます。

極めてアナログな作業の積み重ねです。

 

7月初旬の豪雨による土砂崩れで

水窪~平岡間が不通になっている飯田線

「9月28日(月)から全線運転再開!」との発表がありました。

当初の工事予定を半月以上も縮めての再開です。

関係者の方々ご苦労様です。

 

飯田線の秘境駅《#4》 「中井侍駅」 8時18分~8時28分

大嵐駅を出て

ミステリーゾーンへの入口「門谷川橋りょう」を渡った列車は

最初の秘境駅「小和田(こわだ)駅」に到着するが、

旅程の都合上、今は通り過ぎる。(箱ダイヤ)

 

小和田駅の次が「中井侍(なかいさむらい)駅」

8時18分に到着した。

 

この日、最初に下車する秘境駅だ。

列車には10人ほどの乗客がいたが、中井侍駅で降りたのは管理人のみ。

 

「密」とは無縁の時空が始まる。

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急斜面の茶畑の向こうには天竜川。佐久間ダムダム湖と言ったほうが正しいか。

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改札口のないホームからは、2軒の廃家の横を通って上方に向かう小道がある。

時間があれば行ってみたいところだが、許された時間は僅かに10分。

少し登った地点からの景色を写真におさめ、再び駅に戻る。

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8時28分定刻に、豊橋行きの普通列車が姿を現した

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この列車で、先ほど通り過ぎた「小和田駅」に戻る。

車掌さんが検札に来て下車駅を訪ねる。

 

飯田線で、現在不通になっている区間は、

この中井侍~小和田間。

この間の天竜川と飯田線と険しい山々の航空写真を以下に掲載します。

 

 中井侍駅の2017年の一日当たり乗客者数は9人。

 

 

 

飯田線の秘境駅≪#3≫ ― 秘境駅エントランスとLUMIX G9PRO ―

秘境駅ゾーンへのエントランス。

それは「トンネルに挟まれたトラス橋」

 

「大嵐(おおぞれ)駅」を発車して間もなく

トンネルを出た地点に架かる「門谷川橋りょう」を渡ると

そこからは「飯田線秘境駅」のワールド(世界)が始まる。

 

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 今回、

車窓から秘境駅へのエントランスを撮影することが出来た。

気持ち良く旅のスタートをきることが出来た。

 

ピントを合わせにくいトラス橋を連写で撮影する

LUMIX G9proの動態連写機能に感謝です。

 

飯田線の秘境駅≪#2≫ プラニング

おはようございます。

4連休。待ちかねたように、各地で人の数が増えているようですね。

管理人は出かけること能わず、

涼しくなった朝晩に暖かい日本茶をすすりながら

PCの画面に向かっています。

 

昨日、発生した台風12号

明後日24日夕方頃に

関東地方から中国地方のどこかに上陸するとの

予報が出ました。

どこにも被害をもたらさないことを切に願います。

 

さて、前回、

豊橋を朝6時に出て

最も遠い「千代(ちよ)駅」から順に

六つの秘境駅に下車しながら豊橋に戻る旅程だと

豊橋到着が21時54分になると書きました。

 

この間、トイレは列車内で済ますとして

車内販売や駅構内の自販機が無いので

飲み物や食事は全て持参しなければならない。

豊橋駅を出るときに、一日分の飲み物と食事を用意しておく必要があります。

また、最後の駅である「小和田駅」では、

陽が落ちた暗い駅で列車を待つことになります。

小和田駅周辺の散策は難しい。

 

【1】 乗車する列車と下車駅の決定

前回の記事の最後に書いた「箱ダイヤ」を採用すれば

これらの問題の幾つかを解決し

もう少し早く豊橋に戻ることが出来るという。

 

「箱ダイヤ」とは、

数少ない列車を上り下りで活用し

行ったり来たりすることで

駅での待ち時間を極小化し

より短時間で全ての秘境駅で乗降する方法である。

 

2020年3月14日改正の時刻表で「箱ダイヤ」を確認してみよう。

駅につけられている順位は、牛島さんのサイトでの秘境ランキング。

(画面の都合上、2段に分けた)

 

        3位  11位   

豊橋 水窪  小和田  中井侍     

0600  →  →    0818

      0834 ←  0828

  1022 ←1011 

  1106    →    → 

                                     →(千代1204着)                                                                                            

 

 

 14位   6位    7位   23位

為栗   田本   金野   千代

水窪1106発)    →     1204

1318     ←     ←    1252

 1345           →    1404

     1531 ← 1517

  ←   1709

豊橋着2016)←

 

【2】 食料や飲料水の調達

千代駅から順に豊橋駅に戻る方法では豊橋駅で食料や飲料水を全て買い込んで乗り込まなければならないが、

「箱ダイヤ」を採用すれば、一旦「水窪」に戻ることにより、「水窪」で飲物と食料を調達することが出来るのである。

 

勿論、豊橋で飲物や昼食の弁当を調達し、

小和田駅でそのまま滞在し、2時間弱を使って

渡ることの出来ない「高瀬橋」や近隣の集落を訪ねるのも

有意義な時間の過ごし方である。

 

 

【3】 切符の購入

豊橋から最も遠い秘境駅は「千代(ちよ)駅」で運賃は片道2310円

途中で行ったり来たりを繰り返すので、出来れば通しの切符かエリア切符を購入したい。

 

ベストは

青春18きっぷを購入する方法であるが、

適用期間が限定されていること、

5枚つづりになっていること等の制約がある。

 

青春18きっぷ以外に、JR東海では

土日祝日であれば、一日乗り放題の切符「青空フリーパス」という割引切符がある。

エリア限定だが、エリアはかなり広範囲で途中下車は何回でも可能、

青春18きっぷ」と異なり特急券を購入すれば特急にも乗ることが出来る。

先日、伊勢湾一周の旅で使用した「あの切符」である。

飯田線では秘境駅の先の「飯田駅」までがエリアに入っていて

お値段2,620円(子供1,310円)とお得感満載である。

 

 

martintan.hatenablog.com

 

 

 

この日、早朝のJR豊橋駅の窓口で「青空フリー切符」を購入して

飯田線天竜峡行き」の始発列車に乗り込んだ。

最初の下車駅「中井侍」までは2時間18分の旅路となる。

 

飯田線豊橋駅始発の普通列車の車窓より】

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佐久間ダムの佐久間発電所に近い「佐久間駅」到着の時刻は午前7時45分。

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飯田線の秘境駅≪#1≫ プロローグ

 JR飯田線秘境駅を訪ねる旅。

「疎」の局地

秘境駅に唯ひとり」

 

秘境駅といえば

先ずは、牛島隆信さんのサイト「秘境駅に行こう」訪問だ。

 

牛島さんのサイトでは、今年1月に、2020年版を公開されているが、

No.1~No.200の秘境ランキングの中に

JR東海飯田線の10の駅が入っている。

 

 

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飯田線の概要を見てみよう。

 

愛知県の豊橋駅と長野県の辰野駅を結ぶ総延長195.7kmに起点終点駅を含め94駅。

秘境駅が10か所も含まれるというに、駅間の平均距離は僅か2.13km。

上の路線図でも、飯田線の駅は多すぎて折り曲げないと表示できない。

 

 

中央線で新宿を出発すると196㎞で下諏訪駅

新宿駅7時発の「特急あずさ1号」に乗車し

上諏訪駅普通列車に乗換えれば

9時27分には下諏訪駅に到着する

2時間27分の旅である

 

新幹線を使ったケースでは、

尼崎~新大阪~名古屋の距離が198.1km。

尼崎を5時31分発の東海道線普通列車に乗り

新大阪駅東海道新幹線に乗換えれば

6時48分には名古屋に到着する。

1時間17分の旅になる。

 

一方、飯田線豊橋10時42分発の岡谷行き普通列車に乗車した場合、

途中92駅に停車しながら17時20分に辰野駅に到着する

6時間38分の長旅である。

平均時速29.5km!!

 

 

 

飯田線の前身は

伊那電気鉄道、三信鉄道、鳳来寺鉄道、豊川鉄道の4社の民間鉄道で

太平洋戦争の最中、1943年(昭和18年)に国有化された

 

飯田線秘境駅10駅の内、

ランキング25位までに上位6駅が入っていて、

全て、大嵐駅から天竜峡駅間の「三信鉄道」区間に含まれている。

1956年に完成した佐久間ダム建設による水没と集落移転が影響している。

 

さて、豊橋駅を朝出発して、

一日でこれらの秘境駅6駅全てに下車して

再び豊橋駅に戻ってくることが可能だという。

 

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  ↑ これは「小和田駅」の時刻表

 

豊橋方面が一日に僅か8本(開始駅を豊橋にすると8時以降の7本となる)

天竜峡・飯田方面が一日に9本(開始駅を豊橋にすると同じく7本となる)

 

朝6時豊橋天竜峡行の普通列車に乗り、

秘境駅6駅のうちで最も遠くの「千代(ちよ)駅」まで行き

千代駅から順に6駅で下車し、再び次の列車に乗るという方法をとれば、

21時54分に豊橋駅に戻ることが出来る。

およそ16時間プラス自宅から豊橋までの往復という旅になる。

 

 

もう少し何とかならないか。。。 

 

鉄道マニアの先人たちのマニアックな知恵は極めてハイレベルだ

曰く「箱ダイヤ」

 

 

 

飯田線の秘境駅 ≪#0≫ ― 7月の豪雨により秘境駅間で斜面崩壊 ―

今年

2020年7月10日から降り始めた豪雨は、中部地方でも大きな被害をもたらした。

 

JR飯田線では4か所で被害が発生し、

うち3か所は関係者の方々の努力により復旧したものの

小和田駅中井侍駅間で発生した斜面崩壊と電気設備損傷被害の為

現在もまだ復旧工事中である。 

その影響で、水窪駅平岡駅間は現在も不通状態が続いている。

通学路確保の為だろうか、水窪大嵐駅の間は、平日の朝夕の2本のみ運転されている。

 

7月の豪雨は飯田線秘境駅が本物であることを示したとも言える。

 

 

では、

梅雨に入る前、春に訪ねたJR飯田線秘境駅の旅を

複数回に分けて紹介していきます。

 

JR東海の公式ホームページによれば、

2020年10月半ばには復旧工事が終了し、

豊橋~辰野間が全線開通する予定。

関係者の皆さんご苦労様です。

 

この秋には、是非復旧された飯田線の旅を楽しんでいただきたいと思います。

 

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レールの行先は? ≪#44≫ ー まるで夜間滑走路の如く ―

 

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  (JR名古屋駅ホームから撮影)

 

前回の掲載から3週間ほどが経過してしまいました。

この間、9月2日にアクセス数が28000を越えていました。

停滞気味にもかかわらず訪問してくださる方々に

心より御礼申し上げます。

 

11月11日の「ブログ開設4年目」突入を目指したいと思っております。

今後ともご支援のほどよろしくお願い致します。

もう一つの横谷峡≪#10≫ 番外編  ― 酷暑続く中ちょっと怖い話 ―

「蛭に注意」という看板をみるとかなりビビる。情けないほどビビる。

それは。。。

 

 

泉鏡花さんという作家をご存じだろうか?

遡ること147年前、1873年明治6年)11月4日に金沢で生まれ

1939年9月7日に66歳で亡くなった特異な作風の作家である。

 

日本近代文学幻想小説の原点に位置する方と言っても過言ではないと思います。

幽玄にして華麗。

代表作は『高野聖

 

 

物語はこうして始まる。(注1)

「飛騨ひだから信州へえる深山みやまの間道で、ちょうど立休らおうという一本の樹立こだちも無い、右も左も山ばかりじゃ、手をばすととどきそうなみねがあると、その峰へ峰が乗り、いただきかぶさって、飛ぶ鳥も見えず、雲の形も見えぬ。」

 

 

 

 

そしてクライマックスが・・・これ。

声に出して読むと文章の美しさと恐ろしさがなお一層体感できると思います。

落語や講談に通じるものがあるような気がします。

 

「心細さは申すまでもなかったが、卑怯ひきょうなようでも修行しゅぎょうの積まぬ身には、こういう暗い処の方がかえって観念に便たよりがよい。何しろ体がしのぎよくなったために足のよわりも忘れたので、道も大きに捗取はかどって、まずこれで七分は森の中を越したろうと思う処で五六尺天窓あたまの上らしかった樹の枝から、ぼたりと笠の上へ落ち留まったものがある。
 なまりおもりかとおもう心持、何か木の実ででもあるかしらんと、二三度振ってみたが附着くッついていてそのままには取れないから、何心なく手をやってつかむと、なめらかにひやりと来た。
 見ると海鼠なまこいたような目も口もない者じゃが、動物には違いない。不気味で投出そうとするとずるずるとすべって指のさきへ吸ついてぶらりと下った、その放れた指の尖から真赤な美しい血が垂々たらたらと出たから、吃驚びっくりして目の下へ指をつけてじっと見ると、今折曲げたひじの処へつるりと垂懸たれかかっているのは同形おなじかたちをした、幅が五分、たけが三寸ばかりの山海鼠やまなまこ
 呆気あっけに取られて見る見る内に、下の方から縮みながら、ぶくぶくと太って行くのは生血いきちをしたたかに吸込むせいで、にごった黒い滑らかなはだ茶褐色ちゃかっしょくしまをもった、疣胡瓜いぼきゅうりのような血を取る動物、こいつはひるじゃよ。
 が目にも見違えるわけのものではないが、図抜ずぬけて余り大きいからちょっとは気がつかぬであった、何のはたけでも、どんな履歴りれきのあるぬまでも、このくらいな蛭はあろうとは思われぬ。
 肱をばさりとふるったけれども、よく喰込くいこんだと見えてなかなか放れそうにしないから不気味ぶきみながら手でつまんで引切ると、ぷつりといってようよう取れる、しばらくもたまったものではない、突然いきなり取って大地へたたきつけると、これほどの奴等やつらが何万となく巣をくってわがものにしていようという処、かねてその用意はしていると思われるばかり、日のあたらぬ森の中の土はやわらかい、つぶれそうにもないのじゃ。
 ともはやえりのあたりがむずむずして来た、平手ひらてこいて見ると横撫よこなでに蛭のせなをぬるぬるとすべるという、やあ、乳の下へひそんで帯の間にも一ぴきあおくなってそッと見ると肩の上にも一筋。
 思わず飛上って総身そうしんを震いながらこの大枝の下を一散にかけぬけて、走りながらまず心覚えの奴だけは夢中むちゅうでもぎ取った。
 何にしても恐しい今の枝には蛭がっているのであろうとあまりの事に思って振返ると、見返った樹の何の枝か知らずやっぱりいくツということもない蛭の皮じゃ。
 これはと思う、右も、左も、前の枝も、何の事はないまるで充満いっぱい
 私は思わず恐怖きょうふの声を立ててさけんだ、すると何と? この時は目に見えて、上からぼたりぼたりと真黒なせた筋の入った雨が体へ降かかって来たではないか。
 草鞋を穿いた足のこうへも落ちた上へまたかさなり、並んだわきへまた附着くッついて爪先つまさきも分らなくなった、そうしてきてると思うだけ脈を打って血を吸うような、思いなしか一ツ一ツ伸縮のびちぢみをするようなのを見るから気が遠くなって、その時不思議な考えが起きた。
 この恐しい山蛭やまびる神代かみよいにしえからここにたむろをしていて、人の来るのを待ちつけて、永い久しい間にどのくらい何斛なんごくかの血を吸うと、そこでこの虫ののぞみかなう、その時はありったけの蛭が残らず吸っただけの人間の血を吐出はきだすと、それがために土がとけて山一ツ一面に血とどろとの大沼にかわるであろう、それと同時にここに日の光をさえぎって昼もなお暗い大木が切々きれぎれに一ツ一ツ蛭になってしまうのに相違そういないと、いや、全くの事で。」

 

 

如何でしょうか? 

管理人は

泉鏡花さんのこの文章を読んで以来、

「蛭に注意」という看板を見るとたちまち恐怖に苛まれます。

 

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今回、幾つかの場所で

ヒルに注意!」という看板が目に入ったので、

虫除けの薬をつけ、長袖のシャツの袖を下ろし、帽子をかぶり

ビビりながら歩いていました。

 

しかし結果は

蛭に出会うこともなく

安心して滝巡りをすることが出来た。

 

どうぞ

『横谷峡』の滝たちを見に行って下さい!

 

 

 (注1) 文章は、青空文庫の『高野聖』からの抜粋です。